この住宅は新宿から小田急線代々木上原駅から歩いて数分の南斜面の途中に計画された。周辺はかなり敷地に余裕のある住宅とそれらが建替えられたと思われるミニ開発された住宅や中低層の集合住宅が建ち並んでいる。今回計画された敷地は南北が約16m、東西が6mのほぼ長方形で、南端に比べ北端が約1m高くなっている。西側と北側は今回同時に開発された分譲住宅、東側は中層集合住宅が建っているが、南側は道路に面し、かつ、南斜面のためこちらの方向はかなり開けている。
この住宅の設計にあたって私が考えたことは、この南方向の眺望と敷地の高低差をどのように生かすかということだった。また、地価が大きく下落したとはいってもこのような立地条件の住宅を購入できる人たちは給与所得者の標準的な親子4人家族とは考えにくく、仮想居住者像として経済的にも精神的にもやや余裕のある、ともに仕事をもつ2人という設定をした。
以下がこの設計競技に際して書いた設計主旨である。
■これはふたりのための住居です
ふたりは夫婦でも恋人でも友人でも親子でも構いません。主室となる2階はふたりが同時に居ても気にならないだけの距離と空間があります。部屋1と部屋2の距離も十分にとってあります。夫婦や恋人なら部屋1を寝室に、部屋2を仕事場にするのも良いかもしれません。
上/断面図、スキップフロア形式ではあるが2階は大きなワンルームとなっていて2階のどこに居ても南に視線が伸びる
左/台所より食堂越しに居間の方を見る
■曖昧に連続する長さ15メートルの空間
主室となる2階は大きな1室空間です。とはいっても体育館のようではなく長さ15メートルのチューブ状の空間ですので落着かないということはありません。周囲の街並みや北側の住宅に配慮して擁壁やひな壇造成を避け、現状の地形に馴染ませたスキップフロアの住宅としました。そのため、2階は1室空間ではありますが、天井高を抑え落ち着いた雰囲気の食堂部分や、天井が高く、明るく開放的な居間部分というようにメリハリのある空間となっています。また、スキップフロアを用いることによりこの敷地の南斜面という特性を最大限活用し、台所に立っていても居間でくつろいでいても遥か遠くまで見渡すことが出来ます。一方居間と食堂の間は極めて緩やかな4段の階段でつながれていますので移動には支障ありません。
左/居間より階段・食堂方向を見る、上のパースの見返し
■余裕のある計画
この住宅の容積率は約97%(最大150%まで可能)ですのでまだまだ敷地に余裕があります。ふたりで生活するのに必要十分な空間があれば良いと考えました。その結果居間の横には広いテラスが可能となり、周囲の視線からは遮られながら、陽当たりの十分なこのテラスは居間と一体的な利用が出来ます。また、台所の横には物干しや生ごみを出しておくための大きなサービスバルコニーも設けてあります。しかしながら、将来何らかの理由によりもう少し広くする必要が生じた時にはこれらのテラスやバルコニーに容易に増築をすることも出来ます。予測できない未来の変化への配慮はしながら、現在必要な大きさだけは確保しようという考えです。もちろんこのことは建設費における余裕にもつながるわけです。
左/階段より南側(居間)を見る
■バリアフリー
段差のない住宅が必ずしも良い住宅だとは考えません。肉体的に可能ならばむしろ多少の段差はあった方が良いとすら考えます。しかし、そうは言っても本当に足腰が弱った時に階段の上り下りは辛く危険です。特にこの住宅のように2階に主室があるスキップフロアの場合はなおさらです。その時には階段中央にある収納に昇降機を設置することにより車椅子であっても支障なく生活することが出来ます。